地球の自然環境には、すべての野生動物の存在が必要

シカやイノシシ、「外来種」と呼ばれている動物たちは、「害獣」というレッテルを貼られ、人間によって捕殺されています。

しかし、「害獣」や「外来種」と言われている動物種たちは、地球上の生物が生存できる自然環境の構築に重要な役割を果たしています¹。

地球上のすべての野生動物は、多様な存在として、生態系の維持に寄与しています。これらの生物が相互に作用し合うことで、健全な生態系が保たれているのです。

近年の研究では、人間による野生動物の殺害が自然生態系に混乱をもたらし、生物多様性に深刻なダメージを与え、生態系を破壊することが明らかになっています。このような破壊が進むと、わたしたち人間を含むすべての生物がこの地球で生存できなくなる危険性が高まります。

*差別的な言葉、例えば、外来種や害獣には「」をつけています。

¹⁾自然動植物は相互に関係し合い、生物が共存できる環境を作り出しています。そこに「害獣」や「外来種」といった人間的な考えはなく、動植物はそれぞれ環境に適応しながら進化をとげています。多様性が損失した空間に新たな移住者が空間を埋めることで生物多様性が増し、わたしたち人間も含め生物が生存できる環境(生態系の健康)を作り上げていきます。参考文献 クリス・D・トマス『なぜわれわれは外来種を受け入れる必要があるのか』原書房、2018。ケン・トムソン『外来種のウソ・ホントを科学する』築地書館、2017年。フレッド・ピアス『外来種は本当に悪者か?-新しい野生THE NEW WILD』草思社、2016年。メノ・スヒルトハウゼン『都市で進化する生物たち』草思社、2020年。 

野生動物の現状と今後の自然保護のあり方を考える


自然環境破壊や汚染などで野生動物の生息地が減少し続けています。さらに地球温暖化の進行が生物多様性の減少の危機を招いています。世界に生息する陸上哺乳類の野生動物は生物全体のたった4%以下²になってしまいました。このままでは、数十年のうちに野生動物は地球上から姿を消すとも言われています。

このような背景や倫理的観点から、自然環境保護先進国や野生動物保護先進国では、「思いやりある保全」(Compassionate Conservation )³というオルタナティブな方法が提案されています。フィールド生物学者で認知動物行動学者のマーク・べコフ氏⁴は、「思いやりある保全」の提唱者で「思いやりある保全」にシフトしていくべきと主張しています。


²⁾世界自然保護基金のLivingPlanet Report 2020によると、1970年から2016年の間に野生動物が平均68%減少しています(監視対象の哺乳類、魚、鳥、爬虫類、両生類)。ラテンアメリカとカリブ海の種、および世界の淡水生息地は平均してそれぞれ94%と84%減少しているということです。参考文献 Living Planet Report 2020 reveals 68% drop in wildlife populations EU SCIENCE HUB WWF、(最終閲覧日:2021年10月14日)。https://ec.europa.eu/jrc/en/science-update/wwf-living-planet-report-2020-reveals-68-drop-wildlife-populations
³⁾マーク・べコフ氏は「思いやりあり保全」を進めるに、動物をひとつの「種」として捉えるのではなく、種の「個々」動物に注目することが大事だと言っています。わたしたちと同じ感情や感覚ある個々動物たちの暮らしを想像し考え、わたしたちは動物たちに苦痛を与えない選択・活動をしていかなげればいけません。参考文献 Mark Bekoff  Compassionate Conservation, Sentience, and Personhood Psychology Today、(最終閲覧日:2021年10月14)。https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/201810/conservation-and-compassion-in-the-age-humans-and-beyondMark Bekoff  Conservation and Compassion in the Age of Humans and Beyond Psychology Today、(最終閲覧日:2021年10月14日)。https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/202005/compassionate-conservation-sentience-and-personhood

⁴⁾野生動物を自然環境で観察するフィールド研究者であり動物認知行動研究者。米国コロラド大学ボルダー校の生態学、進化生物学の名誉教授。これまでに30冊以上の書籍を出版。マーク・べコフHP「MarkBekoff,Ph,D」https://marcbekoff.com/

「思いやりある保全」とは


「『思いやりある保全』(Compassionate Conservation)とは、すべての野生動物には本質的な価値があるとう考えに基づき、

動物に害を与えず、

個々の動物を尊重して平和共存する自然保護」のことです。


 野生動物を傷つけず、殺さず、種や個々の動物たちを尊重し、彼らの暮らしを脅かすことなく

平和的に関わることを目的とします。

野生動物を殺すことなく、その個々の暮らしを尊重することは、

サステイナビリティの重要な構成要素です。

野生動物たちが棲む自然環境と個々の動物たちを守ろう!

山の頂上に建設された風力発電所
山の頂上に建設された風力発電所

日本は森林面積が広く、自然環境に恵まれた国とされています。しかし、過去から現代にかけて、自然環境は人間によって大きく撹乱されてきました。その結果、自然植物が豊かに存在する土地とは言えない状況になっています。現代では、太陽光パネルや風力発電の設置、リゾート開発に伴い、森林が大規模に破壊されています。また、日本の自然環境に対する法律や野生動物に関する法律は、他の国々と比較して整備が不十分な現状です。

植林された山にはシカの食べ物はほとんどありません
植林された山にはシカの食べ物はほとんどありません

1950年に制定された造林臨時措置法を契機に、スギやヒノキの植林が進められました。その結果、拡大造林事業が活発に行われた地域では、奥深い山々までもスギが植えられています。このような状況が続く中、四季を失った山々は、地面に光が差し込まず、下層植物が育ちにくい生物多様性に乏しい環境となっています。

野生動物たちは、この荒れた地での生活を余儀なくされています。野生動物との問題については、その存在自体が問題視されていますが、実際に問題とすべきは、日本の「自然環境のあり方」です。

人間が野生動物たちに強制的に住まわせている劣化した環境が、根本的な問題です。この劣化した山の自然環境を、野生動物たちが生活に困ることなく生きられる生息環境に整えることが急務だと考えています。

2020年度のシカの捕獲頭数は674,800頭に達しています(環境省HP)。これほど多くのシカを捕獲している現状から懸念されるのは、生態系の衰退だけでなく、シカがオオカミやニホンカワウソのように絶滅する可能性があるということです。どの程度の狩猟や「捕獲」圧がかかると種の絶滅を引き起こすのかは、現在のところ明らかではありません。

野生動物たちとの「共生」とは


『野生動物との共生』とは、野生動物を理解し、種や個々の動物たちを尊重して地球上で共に生きる」ということです

野生動物はわたしたちの仲間であり、隣人です。

つまり、動物たちと対等な関係にあるということです。

野生動物を殺害し、その死体を資源として有効活用することは、「共生」とは言えません。