「シカの人口統計学」生物学的環境収容力(BCC)

2021年12月10日

思いやりある保全(Compassionate Conservation )は野生動物に害を与えず、平和共存する自然保護ですが、思いやりある保全を提唱していると、野生動物を「駆除」しないということは鹿の個体数が増え続けるのではないか?と質問されることがあります。

今日は、この質問に対し自然界では生物的環境収容力(BCC:Biological Carrying Capacity)が働くという話をしたいと思います。

生物環境学的環境収容力というのは、ある生息地区域が、長期的に良好な健康状態を維持できる鹿の頭数と定義されています。

鹿の出産率が死亡率を上回ると、個体数が増え環境と個体数のバランスが崩れ環境収容力を超えることになります。

このことで、鹿が健康に生息できる環境状態が低下し、鹿の個体数が減少します。

(十分な食料を摂取できなくなると、鹿の個体数は最終的に減少する)。

鹿の個体数と鹿の餌の逆の関係
鹿の個体数と鹿の餌の逆の関係
人口増加に伴う植物と動物の動態
人口増加に伴う植物と動物の動態
 シカの人口が無制限に増加すると、生息地の収容力が低下する可能性がある
シカの人口が無制限に増加すると、生息地の収容力が低下する可能性がある
●画像出典 Deer Habitat Carrying Capacity MISSISSIPPI STATE UNIVERSITY                              


馬毛島の鹿を30年以上にわたり調査してきた、北海道大学大学院文学研究助教の立澤博士によると、馬毛島の鹿たちは個体数が増加すると、妊娠率が低下しオスの子どもを中心に大量餓死が起こったということです。このことが環境収容力を保ち鹿たちが後期に渡り生存を可能にする自然環境と鹿との相互関係(自然のエコシステム=生態系)とも言えます。

人間と鹿の行動域が重なる地域では、人間と鹿が共存できる鹿の最大数を文化的環境収容力(CCC:cultural carrying capacity)といい、土地利用と鹿の個体数に基づき、鹿の存在に対する地域住民の感受性を示します。鹿に対する人間の態度は変わる可能性があることから、鹿に対する住民の苦情はCCCを超えていることを示します。

自然環境が健全である環境では、生物が環境に適応し、うまく自然環境との調和を保つことができます。

デンマーク・オーフス大学のカミラ・フロイガード博士らの鹿と自然環境の研究に携わったサンドム博士が「問題は、人間が彼らに強制的に住まわせている劣化した生態系にある」と語っているように、自然エコシステムが正常に働くよう、荒廃した自然環境を野生動物たちにとって生活しやすい地へと変えなくてはいけません。そして、今以上に自然環境を破壊・汚染しない新たな生活形態を構築する必要があります。

自然環境と種の関係性により生態系が作られ、生態系の一部であるそれぞれの種や種の個々生物が地球環境の健康維持に貢献してくれています。

「わたしたち人間は、野生動物の個体数調節をしなくてもよい=しない方がよい」ということを今日は知っていただきたいと思いました。

WDIで保護している鹿ののぞみちゃん
WDIで保護している鹿ののぞみちゃん

参考文献

Deer Habitat Carrying Capacity Mississippi State University、(最終閲覧日:12月10日)。

「大発見!シカは捕食者やハンターがいなくても増えすぎることなく自ら個体数を調節 馬毛シカ例」熊森協会、(最終閲覧日:12月10日)。

Stephanie Allen, University of Sussex  Research suggests blaming large numbers of herbivores for ecosystem damage might not be wholly accurate PHYSORG、(最終閲覧日2021年11月9日)。