ジビエは持続不可能

2023年05月10日

ーすべての野生動物は地球の自然環境に必要な存在―

ジビエ(gibier:フランス語)とは、野生で生活する動物たちを人間の娯楽である狩猟により殺害した動物、またはその肉を指します。日本では、鳥獣による被害対策として行なっている動物の「捕獲事業」で「捕獲」した野生動物を主に「ジビエ」として販売、消費しています。

近年、ジビエはSDGsの一環で語られることが多いですが、その見解にわたしは懐疑的です。なぜなら全ての野生動物は「健全」な自然環境に必要な存在だからです。

・自然環境を語る際に使用される「健全」との言葉は、何が健全であるか明確ではないため、わたしがこの言葉を使用するときには、「」を付けています。わたしが「健全」だと考える自然環境は、生物が地球での生活に困らない生活環境であり地球で生物が存続できる自然環境です。

社会ではシカなどによる農業被害や生態系破壊が問題視され、人間に「害」を与える動物種は「害獣」とレッテルを貼られています。農業被害や生態系破壊について語られる際には、人間による大規模な自然破壊や汚染は言及することなく、シカやその他の「害獣」が全て悪いと言われている現状です。そして、被害対策のために捕殺した野生動物の死体の「有効利用」を政府や行政、専門家、企業などが大々的に宣伝しています。

その際にジビエは持続可能であるということが盛んに言われています。すると、野生動物の肉を食べることに抵抗があった人も、「持続可能ならいいのではないか」とか、「だったらもっと食べよう」などと考えるようになるかもしれません。

ジビエは持続可能との主張は、野生動物の死体利用への人びとの抵抗を減らす役割を果たし、また「害獣」の捕殺や野生動物の死体利用は環境によいという幻想を人びとに抱かせています。

さて、みなさんは「地球でわたしたち人間が生きていられるのはどうしてか?」と考えたことはあるでしょうか?

人間が地球で生存して快適な生活を過ごせているのは、地球の環境やそこに棲む動物、植物のおかげなのです。

環境と野生動物と自然環境の関係性が、水や空気、気温など、地球で生物が生存できる環境を構築しています。

しかし、その相互関係が崩れると、地球は生物が生存できない自然環境になってしまいます。

野生動物を人間の都合で短絡的に殺すことは、自然動植物の相互関係を破壊する行為そのものです。

第6度目の種の絶滅期に突入したことやCOVID-19の流行で、世界では自然環境と野生動物とのかかわり方の見直しが行なわれています。野生動物の生息地の保護を行なったり、密猟を防ぐために監視をしたり、気候変動によって飲み水、や食糧に困った野生動物たちにそれらを提供する活動などが行なわれています。野生動物の保護は今やグローバルスタンダードなのです。

持続可能性とは、地球規模での自然環境全体にかかわることであり、そこに生きる生き物の存続とそのための環境が不可欠です。

一方で狩猟や野生動物を殺害する行為は、生態系を破壊し、新たなパンデミックを引き起こす持続不可能なものです。

自然動植物の関係性が崩れると、さらなる数々の問題が起りますが、野生動物の殺害や自然環境破壊を通して人間がそれを促進しています。

持続可能性とは、自然環境を形成する動植物と平和共存することで実現するものではないでしょうか。

個体数が多く見え、農作物などに「害」を与えるという理由から、ある特定の生き物の命を脅かし奪うことは、科学的でも倫理的でもなくサスティナビリティーに反するものです。

個体数が多かったり、非在来種であったりする動物に関しては、殺して個体数を減らす個体数管理や殺処分が行なわれていますが、これらの動物種が自然環境にどのような影響を及ぼすかという長期的で綿密な調査は日本ではほとんど行なわれていません。

野生動物の捕殺は生態系に予期せぬ影響をもたらし、生物多様性に乏しい自然環境を招くという専門家の指摘があります。一時的に目で見えることの判断で動物を殺して個体数を減らすのではなく、綿密な実態調査に基づいて生態系を保全するという観点から適切な対策を論じることこそがなされるべきです。

他の国で行なわれている近年の自然動植物に関する調査では、個体数が多いとみられる動物や非在来種は「健全」な生態系維持に貢献していることが明らかになってきています。

一見、人間からは生態系に悪影響を与えているかのように見える種であっても、自然界ではそうではないのです。

例えば、農作物を食べることで「害獣」とされるシカは、下層植物を食べることで森林火災を抑制するとともに、植物の育成を促すことがあります(シカが食べた植物の茎から新芽が出て茎の数が増える)。

北アメリカにあるエリー湖では、水質の悪化で在来種であるイガイが死滅したのちに「外来種であるイガイ」が出現しました。野放図に増えた「外来種のイガイ」は汚染された水質を改善し、生物の多様性が回復しました。

地球の自然環境のあり方は、人間が決めるのではなく、環境と自然動植物によって決定されるのです。

人間は地球上の生物のひとつにすぎず、自然環境のなかで動植物と平和共存することなくしては存続できません。地球の生態系を大規模かつ甚大に破壊しているのはわたしたち人間の活動です。自然環境や野生動物に対するわたしたち人間の意識の改革や、過去から現在に至る活動の形態を変える必要があります。

自然環境への理解を深めて、自然環境とすべての野生動物を大事にしていきましょう。自然環境とそこに棲む動物を守ることこそが、本当の意味での持続可能性です。


・補足 中国は、COVID19発生以降「陸生野生生物の摂取を包括的に禁止」しました。


一部の参考文献

フレッド・ピアス『外来種は本当に悪者か?-新しい野生 THE NEW WILD』社草思社、2016年。

クリス・D・トマスなぜわれわれは外来種を受け入れる必要があるのか』原書房、2018年。

ケン・トムソン外来種のウソ・ホントを科学する』築地書館、2017年。

小島望『<図解>生物多様性と現代社会 「命の環」30の物語』社団法人農山漁村文化協会、2010年。

鷲谷いずみ『大学一年生のなっとく生態学』講談社、2017年。

鷲谷いずみ『新版 絵でわかる生態系のしくみ』講談社、2018年。

揚妻直樹・畑田彩・市川昌弘・中静透編『生物多様性が減少すると何が起きるか?大学講義のためのプレゼン教材 生物多様性の未来にむけて(CD-ROM)』昭和堂、2008年。

石坂匡身「環境倫理とはどういうことかー環境倫理の捉え方」Saneca21st、(最終閲覧日2023年5月10日)。

一方井誠治「第31回 改めて『持続可能性とは何か』を考える」地球・人間環境フォーラム、(最終閲覧日2023年5月10日)。

Ecological sustainability KTH、(最終閲覧日:2023年5月10日)。

Shiping Gong ・ Jun Wu ・ Yangchun Gao ・ Jonathan J. Fong ・ James F. Parham ・ Haitao Shi   Integrating and updating wildlife conservation in China ScienceDirect、(最終閲覧日:2023年5月10日)。