思いやりある保全とは どのような保全ですか?
思いやりある保全(Compassionate Conservation)とは、すべての野生動物を尊重し、思いやりのある扱いを促進する学際的な新しい分野です。
思いやりある保全は国際的に関心が高く、2007年にブリティッシュコロンビア大学で最初の会議が行われた後、2010年のオックスフォードでの会議や2012年のロンドンでの会議、2015年のバンクーバーでの会議など、その後も会議や議論が進められ、現在急速に発展している科学分野です。
シドニー工科大学には、思いやりある保全センターが設立されています。シドニー工科大学のホームページには、オーストラリア及び国際的な動物福祉と保護の進歩と統一を支援し、「人間社会と野生生物の両方に利益をもたらす可能性のある複雑な環境問題の新しい解決策を見つけ出します」と書かれています。
思いやりある保全は野生動物だけでなく、わたしたち人類にとっても非常に重要な科学分野です。思いやりある保全は、野生動物の個々の苦しみを減らし、自然環境の状態を他種多様な生物が生存できる環境に改善すると言われています。
思いやりある保全の原則については、文献で表現に多少の違いがありますが、現在書かれている内容をまとめると以下のようになります。
●野生動物に害を与えないでください。
●個々の動物が重要です(個体群内の個々の動物の重要性を認識する)。
●すべての野生動物には本質的な価値があります(野生動物の固有の価値を尊重し、すべての野生動物を衆生と認識し大切にすること)。
●平和で持続可能な共存を促進(確保)する。
●「害獣」や「害虫」、「外来種」のようなラベルの使用は避けてください(種によって区別し、差別をしないこと)。
●平和共存が効果的な管理オプションであることを理解しましょう(平和共存することは私たち人間にとって利益をもたらすことを理解する)。
簡潔に述べると、「思いやりある保全」とは、すべての野生動物には本質的な価値があるという考えに基づき、動物に害(傷つけたり殺したり)を与えず、個々の動物を尊重して平和共存する自然保護のことです。
野生動物たちの生きる権利と福祉、倫理を自然保護の実践に取り入れ、自然環境保護の成果を向上させ、個々の動物の福祉に影響をあまり与えない人間活動は、種と生態系を保護するための方法を見つけることが可能になると言われています。
思いやりある保全は、現在発展中の科学的分野であることから、まだ発見されていないこともあり不明な点もあります。しかし、今後の研究によりさまざまなことが判明してくることでしょう。
個々の野生動物だけでなく、個体群(種)、生態系の保護となり、自然環境保護にとって切望されたパラダイムシフトを促進していくと言われています。野生動物フィールド調査・認知動物行動学者、思いやりある保全の提唱者であるマーク・ベコフ博士は、「私たちは動物に思いやりと敬意を持ってかかわらなければいけない」と語っています。また、霊長類研究・動物行動学者・環境問題専門家・国連ピース・メッセンジャーであるジェーン・グドール博士も、動物や自然環境への暴力をやめ、動物と自然に平和的にかかわることが私たち人類に必要であると述べています。
野生動物を傷つけず殺さず、種と個々の動物たちを尊重し、私たちが動物たちの暮らしを脅かすことなく、平和的な関わりを目的とする思いやりある保全は、現在を生きるわたしたち人間にとって非常に重要な視点となります。わたしたちは他者への共感、普遍的道徳性が求められています。
参考文献
What is Compassionate Conservation? UTS、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
Can conservation be compassionate? ECSPCA speaking for animals、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
Marc Bekoff Compassionate Conservation Isn't Seriously or Fatally Flawed Psychology Today、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
Marc Bekoff Compassionate Conservation, Sentience, and Personhood Psychology Today、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
Conservation efforts should be guided by compassion rather than by killing. Psychology Today、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
Where compassionate conservation meets rewilding: An interview with Marc Bekoff Inside Ecology、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
Compassionate Conservation THINKK、(最終閲覧日:2021年11月1日)。
文責 WDI代表 岡田友子