最新の研究は草食動物が生態系に損傷を与えているという考えに異を唱えます。

2021年11月09日

現在、日本で鹿は「害」を与える、生態系を破壊させるなど言われていますが、最新の研究はその考えに異を唱えています。

新しい研究によると、イギリスや他の地域の野生の草食動物の個体数は不自然に多いわけでなく、むしろ健全な生態系を維持するに少ないことを示唆するデータが得られました。

サセックス大学のクリス・サンドム博士の共同研究によると、「自然の生産性が同レベルの場合、ヨーロッパの野生草食動物の頭数が、生態系が損なわれていないアフリカに比べて少ない」と示唆されています。

Journal of Applied Ecology誌に掲載された研究結果は、「個体数が多い草食動物が生態系にダメージを与えるという一般的な認識を覆す」ものであり、デンマーク・オーフス大学のカミラ・フロイガード博士らの研究に携わったサンドム博士は「問題は、人間が彼らに強制的に住まわせている劣化した生態系にある」と語っています。

サンダム博士は、野生草食動物の行動、木の皮を剥ぐことや枝を折ること、糞をすることなどは、自然全体の多様性を高めると述べ、それが健全な自然生態系であると語っています。

「最終的には、自然をひとつのシステムとし、すべての構成要素の回復を目指す必要があり、その中に大型の草食動物も含まれ、自立した自然環境を取り戻し、生物多様性を保全するためには大型動物を復活させることが不可欠」とサンダム博士は大型草食動物の存在の重要性を述べています。

今回の研究に携わった研究者たちは「自然がその数(生物)を管理できるようにすべき」としています。

大型草食動物の個体数を回復させるにあたり、農作物へのダメージや交通の妨げなどがあげられますが、政治的なコミットメントやフェンスなど慎重な物理的計画が必要と記事に書かれています。

このような研究結果から言えることは、わたしたちは自然環境と野生生物への理解が必要であり、推測や憶測などだけで判断、行動をしてはいけないということです。

すべての野生動物を生態系の構成員であることを理解し、その野生動物の個体数は自然環境によって異なるため、わたしたちが野生動物の個体数管理をするといった発想を改めることからはじめましょう。

種の個々動物が生態系の一部であり、個々動物の行動が生物多様性を保全を担っていることから野生動物たちの行動は貴重で極めて大事なものです。

個体数が多いと見られる種や非在来種たちは、わたしたちに「害」を与え「生態系を壊す」など言われ、わたしたちに標的にされていますが、このような考えはすでに人権・野生動物保護・自然環境保護先進国では理解を得ることができず、今は「野生生物に害を与えず、どのように生物多様性を回復させ自然生態系を回復・維持していくか」が焦点となっています。

そのためには、記事にも書かれてあるように、政治的なコミットメントや防除柵、野生動物と車両の衝突回避のテクノロジーを発展させていかなければいけません。

わたしたち人類が地球自然環境を破壊し、野生動物から生息地を奪い、環境を劣化させている行為が自然生態系に最もダメージを与え、自然災害などを引き起こす可能性を極めて高くしています。

自然環境・生態系の破壊を野生生物たちの「せい」にしてはいけません。

わたしたちは、自然生態系を破壊している行いをきちんと反省し、認識や行動を改めなくてはいけません。

「国連生態系回復の10年」は、自然動植物と人間の利益のために「世界中の生態系を保護・再生するための『結集の叫び』である」と言われており、地球環境に生きる多くの地球生命体には時間がありません。

古く時代に沿わない考えをいつまでも持っていては問題解決の役には立ちません。自然環境に対する野生動物の現在一般的とされている認識を見直し、最新の科学的知見・倫理的価値判断を基に野生動物とのかかわりを再構築すべき時がまさに今です。

理解を深め責任ある行動を目指しましょう。


参考文献

Stephanie Allen, University of Sussex  Research suggests blaming large numbers of herbivores for ecosystem damage might not be wholly accurate PHYSORG、(最終閲覧日2021年11月9日)。https://phys.org/news/2021-11-blaming-large-herbivores-ecosystem-wholly.html

文責 岡田友子