野生動物をとりまく現状

2021年12月09日

野生動物の生息地は、大幅な減少・汚染が続いており、それに加え狩猟(「捕獲」)により野生動物の個体数が激減しています(これは世界共通認識です)。

過去50年間で、野生動物の個体数が68%減少し、現在、陸上の哺乳類はたった4%以下になりました。

人間活動により自然環境破壊が進行し、野生動物たちは居場所を追われています。野生動物たちは生存のための適応行動を行っていますが、この行動が野生動物と人間の生活域が重なる現象を生みだしています。

このことにより人間と野生動物との遭遇が増え、人びとに「野生動物の個体数が増えた」という誤った認識を生じさせています。

・人里で野生動物の姿を見る=「個体数が増えている」とは必ずしもそうとは言えません。

日本は、戦前からの森林破壊や戦後行われた植林事業が自然環境を大規模に破壊し、生態系を完全変貌させ、野生動物の個体数を劇的に減少させました。今では熊が生存できない植林山が各地に存在しています。

現在では、太陽光発電所や風力発電所が森林の樹木を大規模伐採し建設されています。このことが、戦後の植林事業同様、自然環境の劣化・生態系の破壊を起こし、大型野生動物が生存できない地へと変貌させています。

・環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長、飯田哲也さんは、自然環境を破壊して行うエネルギー施設建設は、ドイツやデンマーク、北欧では絶対にありえないことだと語っています。

人間活動により生息地を奪われた野生動物たちの生活は非常に困窮しており、さらに地球温暖化による気候危機が野生動物の生活をより過酷なものへとしています。

人間に生息地を追われ居場所・食糧源を失った鹿を含め他の野生動物たちは、生存のために食糧を求め移動します。このことが、人里で野生動物を頻繁に目撃することや野生動物による農作物損失を引き起こしています。

現在、農作物「被害」だけが大々的に取り上げられ、野生動物と人間との間の軋轢を増幅させています。

その結果、人びとは野生動物を非常に敵視し、「駆除」という発想に陥っています。

シカについての捕獲頭数は環境省HPによると2020年、674,800頭ということです。これほど多くの殺害が起こっているということは、その数の個々と残された家族・仲間の苦しみ痛み、恐怖、絶望、悲しみなどがあるという倫理的大きな問題があります。さらに、野生動物を殺害することは生態系に多大な損失を与えています。

無数の野生動物たちの殺害を社会はなぜ、容認する流れになっているのでしょうか?

政府や行政、マスメディア、研究者などは、シカや野生動物による被害や危険性を拡張した情報発信を継続して行っているため、人びとにその認識を植えつけ野生動物に対して敵視した「駆除」一色の社会を作りあげています。

さらに、自民党の組織票である大日本猟友会の圧力があり、政府、自民党、行政、猟友会が一体となり狩猟と「捕獲」、ジビエを促進し、ジビエの消費を人びとに促し、「感謝して命をいただく」という論理的に崩壊した言説を社会により浸透させました。

本質は、人間活動による野生動物たちの生息地・食料源減少という、野生動物が被害者である現状にもかかわらず、政府や行政、マスメディア、研究者、猟友会などは、わたしたち人間が「被害者」であるという認識を社会に拡散しており、無数の野生動物「駆除」が実現化しています。

このような背景では、自然環境と野生動物に関しての綿密で公平な調査や正確な情報が公にならず、倫理的観点や自然生態系保護の観点に欠如した科学的根拠に乏しい内容が行われているという問題があります。

そして、野生動物に関する法律、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」の内容は、「時代に取り残された法律」と言われており、野生動物の身体的・精神的苦痛への配慮や生態系への配慮などなく、実質、狩猟はどこでも行える法律となっています(申請さえすれば自然保護区など本来守られるべき場所でも鳥獣の捕獲・捕殺が可能となっています)。

人間が引き起こした問題を被害者である野生動物に押しつけ、野生動物に濡れ衣をきせることが長らく行われているため、適切な環境教育はほとんど行われていません。

まずは、野生動物が置かれている現状や自然環境の状態、無実で無抵抗な野生動物たちが無数に殺害されている現状を知り、「害獣」というレッテルを剥がし、野生動物たちを保護する本質に向いた意識を育てる必要がります。自然環境を野生動物たちが困ることなく生活できる環境に整え、持続可能性を考えた野生動物との平和共存を目指すべきだと考えます。

今後、自然環境破壊活動が続くと、野生動物たちはもはや生存不可能になってしまいます。そうなる前に、自然環境に対する乱開発や汚染などといった自然環境への人間の侵入を改め、自然環境保護・野生動物保護活動に役に立つ法律改正を行い、自然環境動植物を保護する取り組みを行うべきです。


参考文献

「『鳥獣保護管理法』とは?成立の経緯とその課題について」WWF JAPAN、(最終閲覧日:2021年12月9日)。収

支報告書 大日本猟友政治連盟、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

「いま、獲らなければならない理由」環境省、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

「大日本猟友会、自民党で狩猟のつどい ジビエ料理を食す」日本食糧新聞、(最終閲覧日2021年12月9日)。

監修:環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室『鳥獣保護管理法の解説』大成出版、2020年第5版

Amy Woodyatt Human activity has wiped out two-thirds of world's wildlife since 1970, landmark report says CNN World、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

Helen Briggs Wildlife in 'catastrophic decline' due to human destruction, scientists warn BBC News、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

Deer Habitat (where deer live, and why) World Deer、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

Habitat Loss The National Wildlife Federation、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

The Effects of Global Warming on Wildlife ThoughtCo.、(最終閲覧日:2021年12月9日)。

WILDLIFEW ARMING IN A WORLD NATIONAL WILDLIFE FEDRATION、(最終閲覧日:2021年11月18日)。

文責 岡田友子