liminal animal(境界動物)

2025年01月25日

【はじめに】


この記事では、人間の居住空間に適応して暮らす野生動物たちの新たな分類、「liminal animal(境界動物)」についてまとめます。


【人間以外の動物たちの「分類」に関する私の見解】


動物の分類については、人間が自然界や人間以外の動物たちとの関わり方を理解する助けになるかもしれませんが、一方で、その分類によって人間以外の動物たちへの偏見や差別意識が生まれ、暴力に発展することもあります。そのため、私は動物たちの分類に対して良い印象を持っていません。

「分類」は人間が作り出したものであり、人間視点から見た区別の多くは、人間社会の都合や目的に沿って動物を「管理」するために使われることが多いです。その結果、分類によって動物たちが多大な不利益を被っていることがあります。



【「liminal」という単語について】


「liminal animal」の「liminal(リミナル)」という言葉は、ラテン語で「敷居・横木」を意味する「limen」に由来します。この単語は1870年頃から「敷居に関すること」という意味で使用されるようになりました。この言葉は中間の状態や段階、または境界や敷居のその両側に位置する状態を指します。

「limimal」という言葉は、主に以下の二つの意味で使われます。

  1. 限界的:

    • 物事の限界や制約に関連する概念を指します。特に、何かの限界を探求する際に用いられることが多いです。
  2. 境界:

    • 物事の境目や境界線を示す意味合いです。科学や哲学の文脈で、存在や認識の境界を考える際に重要な役割を果たします。

このように、「llimimal」は文脈によって異なるニュアンスを持つようです。

「liminal animal」という概念は、著述家のスー・ドナルドソンと法哲学・政治哲学を牽引する理論家である、ウィル・キムリッカらによって造語されました。かれらは共著『人と動物の政治共同体 Zoopolis』の中で、この新しい概念を説明するために、「liminal animal」という用語を使用しています。


【liminal animalとは】


「liminal animal」は、人間の居住環境に適応して生活する多様な種を指します。具体的には、リスやアライグマ、ネズミ、ムクドリ、ツバメ、カモメなどが含まれます。

これらの動物たちは、人間のコミュニティの中で生活しているため、「共に暮らす仲間」と言える存在です。しかし、かれらは人間と直接的な接触を避ける傾向があり、人間の世話を受けることなく独自に生活を営んでいます。

かれらは、人間に特定な依存をしているわけではありませんが、人間の居住空間やそこに生じる環境から利益を得ています。一方で、かれらは人間そのものとの接触を必要としない特徴があります。このようにして、liminal animalは人間の環境に適応しながら繁栄を遂げてきたのです。


【liminal animalの分類】


liminal animalは、その生活環境や適応の仕方によっていくつかのカテゴリーに分類されます。代表的な分類は以下の通りです。

機会主義者(opportunists)

環境の変化を利用して柔軟に適応する動物たち。

ニッチ・スペシャリスト(niche specialists)

特定の環境に特化しているが、柔軟性に欠ける動物たち。

「移入外来種」*(introduced exotics)

人間の活動によって持ち込まれた種で、新しい環境に定着した動物たち。

これらの動物たちは、さまざまな人間活動の影響や環境変化の影響を受け、人間の居住空間で生きるようになったと言えます。

*差別的な言葉には「」を付けています。


【まとめ ーliminal animalへの認識ー】


liminal animalの集団は多様性に富んでいますが、スー・ドナルドソンとウィル・キムリッカは、それらが以下の2つの主要な特徴を共有していると指摘しています。

  1. 個体として特定の「帰属先」を持たないため、かれらを排除することは正当ではない。
  2. シティズンシップモデル(市民権モデル)に基づく保護を適用する対象ではなく、家畜化することも適切ではない。

つまり、かれらを追放するのは不当であり、同時に人間の管理下に置くことも倫理的観点や権利の尊厳の観点から問題があるということです。

人間とliminal animalが共存するためには、同じ空間で生活する「仲間」としてかれらを認識し、受け入れ、その行動やシグナルに応答する必要があります。また、liminal animalの不可侵の基本的権利を尊重し、平和的な共存のためのアプローチを採用することが求められます。


参考文献

スー・ドナルドソン/ウィル・キムリッカ『Zoopolis 人と動物の政治共同体「動物の権利」の政治理論』尚学社、2016年。