野生動物との「共存」とは

2025年09月18日

「野生動物との共存とは」



はじめに

人類と野生動物がどう生きていくか――「共存」というテーマは、いまや世界的にも大切な課題となっています。自然環境の破壊や汚染の広がり、さらには密猟の深刻化などが進む中で、生態系の維持、そして動物たちとどう向き合うかという倫理的な責任を考えざるを得ません。この記事では、2025年9月現在のWDIの考える「共存」のあり方を、倫理の視点と実践の視点から見つめ直してみたいと思います。 


「共存」の概念と定義

明鏡国語辞典によると、「共存」とは「複数の異なるものが同じ環境の中で同時に存在すること」とされています。しかし、野生動物との共存を考えるとき、その意味は単に「一緒に存在している」だけでなく、「平和的な共存」を目指すべきだとWDIは考えています。

ここで大切なのは、「野生動物との共存」という考え方自体が、基本的に人間の視点からつくられているという点です。つまり、野生動物たちにたいして「人間が何を望み、何を避けたいと考えるか」という価値判断によって、そのあり方が決められてきました。そしてその価値観は個々人によっても異なります。

だからこそ、共存について語るときには、必ず倫理的な視点が求められるのです。



倫理的視点と

Compassionate Conservation(思いやりある保全)

近年発展中の「Compassionate Conservation(思いやりある保全)」という自然保護の考え方では、野生動物を単に「種」や「群」で捉えるのではなく、個々の動物たちの存在、人格性を重んじ、野生動物たちを道徳的配慮に値する存在として尊重します(Mary Midgley, 1984)。

この視点では、動物との共存の概念として、次のような考え方が述べられています。


  • 野生動物を、人間社会や生態系コミュニティに欠かせない存在とみなすこと

  • 人間以外の動物の幸福を大切にし、それを守ることを人類の責任とすること


この立場は、自然と社会の二元論を否定し、「ケアの倫理」にもつながっています。
つまり、人間・動物・自然のつながり全体を見渡し、そのすべての幸福と繁栄を共に目指していくという視点です。


WDIの考えと課題

WDIも、Compassionate Conservationの理念には深く共感しています。
ただ一方で、人間の「幸福」や「繁栄」といった価値観そのものが、人間中心の考えに偏りやすいという課題もあります。人類はこれまで、「発展」の名のもとに自然を破壊し、多くの動物に深刻な影響を与えてきました。

こうした歴史をふまえると、これからは「人間中心主義からの脱却」という視点が欠かせないと考えています。

ここで誤解してほしくないのは、人間中心主義を手放すことが、人間の暮らしを不便にするという意味ではないということです。むしろ、自然や動物に負担をかけない暮らし方をつくることこそが、結果的に人類自身の生存を守ることにつながります。
新しい生活のあり方を模索することは、未来に向けた大切な課題でもあるのです。



WDIの考える「共存」とは


WDIの考える「野生動物との共存」とは、野生動物を理解し、種や個々の動物たちを尊重し、地球上で共に生るということです。野生動物たちは、わたしたちの仲間であり、隣人です。つまり、野生の動物たちと対等な関係にあるということです。


野生動物たちを「種」として「個々の存在」として尊重をし、かれらに害を与えず、かれらが困る状況を生み出さないためにも、まずは野生動物たちの存在を理解し、受け入れることが重要だと考えます。そのためには、人間中心の視点から動物たちの立場での視点が求められます。



結論

野生動物との「共存」は、ただ一緒に存在することではなく、倫理的・科学的な視点に立ってあらたに築き直していくべき、人間側の価値観の問題だとWDIは考えています。


今後は、人間の活動が野生動物たちの暮らしや福祉にどんな影響を与えているのかをきちんと見つめ、そのうえで、必要な介入であれば倫理的にも科学的にも正当性があるか厳格な精査が欠かせません。

つまり、「共存」とは野生動物たちの問題ではなく、人類がどう自然や動物たちに責任を果たしていくのかという、人間自身に問われているテーマなのです。


参考文献


William S. Lynn a d 1, Liv Baker b d 1, William T. Borrie c d 1, Adam P.A. Cardilini c d 1, Shelley M. Alexander h, Simon Coghlan g, Paul Cryer n, Gavin T. Bonsen o, Tristan T. Derham d e, Oded Keynan f, Christine M. Reed d i, Sophie Riley j, Erin A. Ryan k, Francisco J. Santiago-Ávila d l, Kristen Walker k, Amaroq E. Weiss m, Nadia Xenakis k

Compassionate conservation in practice: A values-driven, interdisciplinary, pluralistic, and deliberative community Elsevier、(最終閲覧日:2025年9月18日)。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006320725000394