ジビエは持続不可能(2)

2024年10月12日

2019年頃から、野生動物の肉を食べる行為が「サステナブル」として認識され、広く社会に浸透しつつあります。しかし、以前のWDI記事「ジビエは持続不可能」で述べたように、野生動物の捕殺は自然環境に重大な影響を与え、長期的には生態系の損失につながる行為です。

まず、地球上の動物たちはそれぞれが自然生態系の健康に貢献しています。特にシカに関しては「個体数が増加しすぎて生態系が破壊されている」との理由で捕殺が正当化され、その肉を食べることが「持続可能」と主張されています。しかし、この「増加」という判断は野生のシカ個体数が極めて少ない時代と比べたものであり、自然の本来の姿を誤って捉えている可能性があります。自然環境の在り方は人間の都合によって決定されるべきものではなく、自然の動植物が相互に影響し合い、形成されるものです。

さらに、野生動物を捕殺することは、地球環境に貢献する生態系の重要な要素を奪い去る行為であり、決して「サステナブル」とは言えません。むしろ、これにより生態系の喪失が引き起こされる危険性が高いのです。最近の研究では、シカを駆除し、その死体を自然環境から除去することで、環境中の必須栄養素が失われる可能性が示唆されています。

エディンバラ大学とイエール大学の研究者たちが2010年から2022年にかけてスコットランド行った調査(*1)によると、シカの死体が除去されることで、毎年何十万キロもの重要なミネラルが自然環境から失われていることが分かりました。具体的には、スコットランド全体で年間251,188kgのカルシウム、195,652kgの窒素、152,834kgのリンが環境から消失しています。特にカルシウムの減少は、商業林や在来林の再生を妨げる可能性があり、鳥類の卵の殻が薄くなるなどの生態系全体への影響も懸念されています。

野生動物の死体は、捕食動物や微生物によって分解され、最終的には生態系に還元されます。捕食動物の活動は、栄養分の分布に不均一性をもたらし、これは人間が再現することは困難です。人間が野生動物を捕殺することで、栄養素のホットスポットが作られることにもなります。またその死体を除去することは、自然界の栄養分の循環を断つ行為に他なりません。

ただし、この研究結果はあくまで推定に基づくものであり、死体の分布や環境条件をさらに詳しく調べる研究が必要です。また、ロードキル(車両による動物の轢死)などは含まれておらず、実際の栄養素の損失は過小評価されている可能性があるとも指摘されています。

野生動物の死体を食べる行為は、長期的には生態系に悪影響を及ぼす可能性が高いことが明らかで、持続不可能なことです。「ジビエはサステナブル」や「SDGs」といった表面的な言葉に惑わされず、わたしたちは自然環境とそこに生息する動植物の関係について、最新の科学的知見をもとに考察し続ける必要があります。


参考文献

(*1) University of Edinburgh  Clearance of deer cull carcasses is a loss to ecosystem, finds Scotland study Phys.org(最終閲覧日:2024年10月12日)。