
宮島のシカに関するWDIの見解-野生動物の自律性と共存ー
宮島のシカに関するWDIの見解
-野生動物の自律性と共存ー
宮島のシカへの「餌やり」を巡っては、長年、歴史的背景を重視する視点と、現在の生態学的状況・長期的なシカとの共存を重視する視点の間で議論が続いています。野生動物保護のあり方を考察するWDI(ワイルドディアイニシアチブ)に対し、この件に関心をお持ち方たちからご意見をいただく機会が増えています。そのため、「A Voice for the Voiceless」(アメーバブログ)で、以前から記載している、わたしの考え方をこちらのホームページにも明文化いたします。
「餌やり」の段階的廃止という選択
私は数年前から、現在の宮島のシカたちへの「食料支援の必要性」について言及してまいりました。しかし、これは支援の永続的な「継続」を意味するものではありません。
現在、特定の頻度で行われている「餌やり」を突如として断絶することは、それを学習し、期待(予測)しているシカたちに対して、負の心理的・身体的経験を強いることになります。動物福祉の観点から、急進的な変化による苦痛を避けるための「経過措置」としての給餌は必要ですが、わたしの考える最終的な目標は「人間の介入からの段階的な脱却」¹にあります。
1. 段階的廃止については、管轄の自治体へ数回の要望を行っております。わたしは「段階的な廃止」が望ましいと考えていますが、一方で、シカたちの身体的な健康という観点においては、餌やりを急に停止した場合でも、著しい健康状態の悪化は生じないとする専門家の見解も示されています。
過去の反省を「介入」の正当化に使わない
「餌やり」を支持する主張の多くは、過去に人間がシカに対して行ってきた介入の歴史を根拠としています。確かに、人間が野生のシカたちに介入し、シカたちの生涯に影響を与えてきた事実は忘れてはなりません。
しかし、過去の過ちに対する反省は、「介入を形を変えて継続すること」ではなく、「介入を適切に解消していくこと」に向けられるべきです。過去に依存を生み出した責任を取るということは、かれらを永遠に家畜と呼ばれている動物種たちのように管理することではなく、かれらが宮島の自然環境の中で、本来の能力を発揮して自立して生きていける状態をサポートする必要があります。シカたちへの介入に責任を持つのであれば、「餌やり」という形で関わり続けるのではなく、本質に目を向けた行動へと転換すべきだと考えます。
「異物摂食」と「海藻摂食」の誤解を解く
「餌やり」停止の反対理由として「シカが空腹のあまりゴミや海藻を食べている」という言説が散見されますが、これには慎重な科学的視点が必要です。
・異物摂食の原因
行政による給餌が行われていた時代、宮島のシカたちがパンフレットや人間が自然界に放置したゴミなどを口にするシカたちの行動を確認しています。これは単純な「空腹」のみに起因するものではなく、観光地特有の環境ストレスやフラストレーション、好奇心、学習行動といった複合的な要因によるものです。
・海草の摂取について
宮島のシカが海藻を食べる行動は、空腹による異常行動と捉えるのは早計です。他の沿岸部に生息する野生の(特定の)シカにも見られる採食行動の一つです。
事実に基づかない危機感の煽動は、結果としてシカたちを「憐れみの対象」として固定化し、かれらの野生動物としての尊厳を損なう恐れがあります。
陰の守り手
現在、「餌やり」に慎重な立場を取る人々が、一部で「シカを苦しめる側」とレッテルを貼られている現状があります。しかし、わたしのもとに届く声の多くは、シカたちの安全のために黙々とゴミを拾い、植樹活動を行い、長期的な生存基盤を整えようとする誠実な活動に基づいています。その方たちの声と活動を、一方的に無視するべきではないと考えます。
安易に栄養価の高い嗜好品を与えることは、一時的な満足感を与えるかもしれませんが、長期的にはシカと人間との軋轢(交通事故等)を招く直接的な(シカと人双方の)「害」となり得ます。
結論:シカの自律性を尊重する未来へ
幸いなことに、現在の宮島のシカたちは、(公に行われている)週に一度程度の給餌に期待している段階に留まっており、自然界での採食(木の枝や落ち葉など)²を中心に生活を維持できる可能性があります。
わたしたちが目指すべきは、シカを人間の感情を満たすための道具や対象として「利用」することではありません。人間との適切な距離を保ち、シカたちが自らの判断と力で生きていく「野生動物としての自律性」を取り戻すこと。それこそが、真の意味での共存であると考えます。
情報が溢れる現代だからこそ、一時の感情論や「美しく聞こえる」発信に流されず、根拠に基づいた倫理性を持って、シカたちの未来を判断していただくことを切に願います。
2.シカたちは草食動物ですが、生息環境によって資源とする植物が異なります。宮島のシカたちについては、木の枝や落ち葉(新鮮な落ち葉も含め)を食べていることが糞の調査からわかっています。
◆本記事の内容は、現時点での私自身の理解に基づくものです。ご賛同いただける点がありましたら幸いです。
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