動物福祉「動物の5つの自由」
「動物の5つの自由」に「安楽死の自由」を追加すべきか?
2024年8月5日に開催された「奈良のシカ保護管理計画検討委員会 鹿苑のあり方等検討部会第2回会議」を傍聴しました。この会議で配布された参考資料5「動物福祉と群管理」において、「動物の5つの自由」に新たに6つ目の項目として「安楽死の自由」が提案されました。この提案は、日本獣医生命科学大学の田中亜紀氏によるものです。田中氏はアメリカの先進分野である「シェルターメディスン」を長年研究した後、帰国し母校で「動物福祉」の研究と普及に取り組まれています。
シェルターメディスンとは、特に動物保護施設における動物の健康管理や治療に焦点を当てた分野であり、保護施設にいる動物たちが健康でより良い生活を送り、適切な家庭に迎え入れられることを目指しています。このような動物の健康管理は、動物福祉と関わっていますが、動物福祉そのものが主な目的ではありません。つまり、動物福祉の「専門家」としての土台が違うということです。
【動物の5つの自由とは】
「動物の5つの自由」とは、動物福祉における基本的な権利であり、人間の飼育下にあるすべての生き物が人道的に扱われることを保証する国際的な基準です。具体的には次の5つの自由を指します。
- 飢え・渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛み・負傷・病気からの自由
- 本来の行動が取れる自由
- 恐怖・抑圧からの自由
これらは、個々の動物たちの精神的・身体的ニーズを満たすことを目的としています。
【新たな項目の追加に関する考慮事項】
動物福祉「動物の5つの自由」は、動物たち自身の権利を守るための基本原則です。もし、新たな項目を独自に追加する際には、動物たちの利益を最優先に考慮し、動物たちにポジティブな影響を与えるものでなければなりません。
例えば、アメリカ最大の動物保護施設であるMaddie's Instituteは、独自に「生きる自由」という6つ目の自由を追加しています。この自由は、治療可能な犬や猫、健康な犬や猫が新しい家族を見つけることを意味しています。
【田中氏が提案した「安楽死の自由」】
田中氏が提案した6つ目の自由「安楽死の自由」は、以下のような理由から必要とされています。
・不必要な苦痛、予後不良の回避
・治療困難な疾患および治療の一環、公衆衛生や安全確保
【「安楽死の自由」の追加に関する問題点】
「動物の5つの自由」に「安楽死の自由」を追加することには、いくつかの問題があります。
- 動物福祉は動物自身のために設けられたものであり、公衆衛生上の安楽死(殺処分)という人間の都合を組み込むこと
- 劣悪な飼育環境下で体調を崩した動物の安楽死をも可能にしてしまうおそれがあること
【結論】
「動物の5つの自由」は、常に個々の動物たち自身の権利であることを忘れてはいけません。人間の都合による公衆衛生上の安楽死などを追加することは、大変きけんです。治療が困難な病気や負傷による苦痛からの解放は、「動物の5つの自由」の「痛み・負傷・病気からの自由」で十分にカバーできます。
したがって、田中氏が提案された6つ目の自由「安楽死の自由」の追加は必要ありません。
*WDIはこの件いついて、奈良県奈良公園室に意見賞を提出しました。